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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
マンの採用のお祝いといって、善助は芋焼酎の燗をつけたが、ふと、思いだしたように、
「専売局といやあ、あの駐在所の鬼が、七瀬の水車小屋でなあ……」と、話しだした。
マンは、胸のなかで、心臓が一廻転したような気がした。かあッと、顔が燃えた。眼を皿にして、父の顔を見た。
善助は、上きげんで、焼酎の徳利から、独酌をしながら、
「……なんでも、とうとう、狐に化かされたらしいぞ。あの鬼奴、いつも、威張りくさっとった。――この谷の者はみんな間抜けの阿呆たれじゃ。この文明の世の中に、狐が人間を化かすなんて、そんな馬鹿げたことがあるか。おれの方が狐を化かしてみせる。……なんて、いうてな。それが、今度は、狐どんからやられたんじゃ。罰よ」
「そりゃあ、ええ気味じゃが、どがあな風に、化かされんさったとな?」
これも、茶碗で焼酎をかたむけ、もう赤くなっている倉助が、きく。
「わしも聞いたことで、ようは知らんけどな、高門の武十旦那の話によると、こうじゃ。――旦那が七瀬の水車の横を通りかかんさった。そしたら、小屋の中から、ウンウン呻る声がして、なんか、入口から這いだして来た。旦那はびっくりしたらしいけんど、胆の太い人じゃけ、提灯をさしだして、照らして見んさった」