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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「それが、専売局じゃったとけえ?」
と、母イワが、身体を乗りだす。
「そうよ。どがあしたわけか知らんが、腑抜けのようになってな、旦那が声をかけても、返事もせんし、フラフラッと立ちあがって、なんべんか倒けながら、川の岸をユウラユラ、酔いどれみたいに、歩いて行ったというわい」
「どっちの方に?」
マンは、切迫した声できいた。
「柿ノ坂の方じゃ。狐に化かされとっても、駐在所に帰る方角だけは、知っとったとみえるのう。服は泥だらけになっとったというが、そんなことも気づかん風じゃったらしい」
「カバンは持って居らんじゃったけえ?」
「カバン? それまでは聞かんじゃった」といったが、ふっと、不審そうに、「マン坊は、どうして、鬼がカバンを持っとったこと、知っとる?」
「いンね、……役人さん、いつも黒いカバン持っとるけえ、どうしたか、と、ちょっと思うたもんじゃけえ……」
マンは、どぎまぎと答えた。
水車小屋の事件を、マンは父に話さなかった。誰にも話さなかった。盆踊りの晩、村長の二男坊から手ごめにされかけたことは、すぐに、父に打ちあけたのに、今日、ふたたび、同じ目に逢いながら、これは隠した。