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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「なんという方ですの?」
「熊丸虎市、とか、いやはりました」
「恐い名ですこと」
二人は、顔見あわせて、ころころと、笑った。
「それが、おマンはん、恐いどころか、えろう優しい、……新之助はんの口でいうと――二十日鼠みたよな、色白で、コチョッコリした、おとなしい人。……やそうやし。――監獄ちゅうところは、どんな悪い奴ばかり来とるところかと思うたら、みんなええ人間ばかりじゃ。娑婆でのさばっとる奴等の方に、よっぽど悪人が居る。……そないなことも、いうてはりました」
君香の話は、明かるいことばかりである。マンも、新之助と彼女との新生活をよろこぶ気持に変りはない。それにもかかわらず、マンの心に、えたいの知れぬ不安の気持がわき、かすかながら、不思議な動悸が打つ。牙と歯のするどい猛獣のうようよしているジャングルで、料亭をひらき、興行をするという森新之助、そして、そのことの、夫金五郎へのつながり――マンの予感と予見とは、かならずしも、空虚の中に幻影を見る、錯覚だけでもないように思われた。
君香は、金五郎が帰ったら、すぐ連絡してくれるようにと、若松の住所を書き、土産のウニを置いて、いそいそした足どりで、帰って行った。