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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

翌朝、洗濯をしているところへ、大庭春吉からの使いが来た。庭番の弥吉という老人である。せかせかした語調で、

「おマンさん、これから、じきに、親分の家へ来てつかあさい。なんか、大事なことで、ぜひ話したいことがあるげなけん」

マンは、すぐに、着物を着換え、弥吉老人とつれだって、家を出た。

大庭家は、牧山の高台にあった。鬱蒼とした森林を背後に、深い孟宗竹の林にかこまれて、こじんまりした白壁の家がある。うるさいほど、雀が鳴いている。

大庭の家に行くと、先に助ボーシンの松川源十が来ていた。これも、使者を立てて呼び寄せられたらしい。

春吉は、納戸の座敷で、二人を待っていた。無言で、茶と、菓子と、煙草とを供してから、突然、怒ったような口調で、

「大事が起ったなあ」

と、口を切った。

「なんごとですか?」

「六ゾロの源」は、びっくりして、菊石面の長い顎をつまんだ。

「東京よ。交番やら、電車やらが、どんどん焼かれよる。日比谷で講和反対の国民大会が開かれたり、大臣の家に押しかけたり、帝都は大騒ぎじゃ。とうとう、戒厳令が布かれたちゅうぞ。当り前のことよ。これだけの戦争をして、こげな屈辱外交をされたんじゃあ、国民が黙って居られるもんか。