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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「まだ、なんか、用でも……?」
「ちょっと、待って」
マンは、奥に入ると、桐箪笥を探って、巾着を取りだした。十銭銀貨をひとつ、塵紙のなかにひねりこんだ。玄関に出ると、「煙草銭にでも」
そういって、俥ひきに、渡した。
料理屋は、朝が遅い、置屋も同様だ。「飛鳥」が、朝食と昼食とをごっちゃにして、食膳にみんなが揃うのは、大抵、正午過ぎ、それから、掃除がはじまるのである。
花見客の二次会、三次会が、午前一時二時は普通、夜明けがた近くまでも騒ぐ組があって、「飛鳥」の寝たのは、もう、東の空が白むころだった。
お京は、しかし、早くから、眼がさめた。蒲団のなかからは出ず、腹ばいになって、煙草を吸った。障子に、明かるい朝の光線がさしている。
六畳の部屋に、三つ、蒲団が敷きならべてある。同僚の芸者は、誰も、まだ、深更の夢を見ていた。白粉がはげ落ちたり、髪がくずれたり、枕を外したりしていて、あまりよい恰好ではない。夜、化粧をし、お座敷着姿でいると、なかなか美しいが、こうして見ると、興ざめだった。
(昼は、夜の言葉を殺す――なんかの本に、書いてあったわ)
お京は、そんなことを考えて、苦笑が湧いた。