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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「はい」
マンは、青ざめた顔をしていたが、なに一つ、夫の言葉に抗わなかった。火の入った弓張提灯を持って、小走りに、出て行った。
家紋である「丸に橘」と、「玉井組」の字の入った、五十箇以上の弓張提灯に、すっかり、明かりがついて、光の花壇のようである。それを、玄関を中心に、ずらりと、掛け並べさせた。
眩しいほど、明かるい。
数匹の猫が、なにごとかと不思議そうに、きょろきょろしている。
マンが、笊に、ラムネを入れて、帰って来た。
「まあ、きれい」
と、提灯の満艦飾に、思わず、呟いた。
ラムネを、一本ずつ、みんな飲んだが、
「オヤジ、誰か来るのかね?」
さすがに、頭にぴんとひびくものがあって、源十が、不審顔で、訊いた。
「お客があるんじゃ」
「こんな夜中に? 誰が?」
「みんな」と、急に、金五郎は、あらたまった顔になった。「今夜、十二時をすぎたら、江崎満吉がなぐりこんで来る。相手は、おれが一人でする。玉井組は、喧嘩商売じゃないけ、お前たちに、喧嘩の巻き添えを食わせとうない。二階にあがって、絶対に、降りて来ることはならん。おれが斬られても、手出しするな。さあ、早く、あがれ」