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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

大将」

「離せ」

「今から、行っても、もう、間に合わん」

「殺られたのか?」

どきっとして、心臓が、胸壁の中で、宙返りした。

「もう、すんでしもうたですよ」

「すんだ、というのは?」

「江崎の方が、敗けたとです」

「詳しく、話してくれ」

豆八の語るところによると、こうである。

――五反町にある江崎満吉の家では、玉井家を襲撃するために、子分たちを鳩合した。昼間から、準備をして、首途に鏡を抜く四斗樽まで買いこんだ。もっとも、この酒代は払ったかどうか、わからない。夕方ごろ、江崎家には、三十人ほどの人数がいた。牛肉のすき焼かなんかで、晩飯を食い、酒を飲んでいた。竹槍、日本刀、鎌などが、牀の間に、ずらりと、ならべてあった。酔って来ると、歌う者、手をたたく者、踊る者が出て来た。

「おいおい、あまり、ぐでぐでになるなよ」

江崎満吉は、気が気でないように、幾度も子分たちをたしなめていた。

十二時の定刻まで、みんな、一寝入りということになった。

十一時に、江崎が起した。そして、型どおり、向こう鉢巻、縄襷、尻はし折り、ワラジがけ、武器をものものしくたずさえて、赤穂浪士の討入り然と、出発した。