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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
おれが、指南してやる。……それにしても、……」
と、永田杢次は、俄かに、感慨に耐えぬような、遠くを見る回顧的な眸になって、
「お前と、おマンとが、二人で、乞食の引っ越しみたよな恰好で、おれのところを頼って来たのは、ありゃあ、もう、何年前になるかなあ……?」
「あれから、三年ほどが経ちました」
「そうなるかなあ。下関の「なんでも屋」ちゅうのは、同郷の直方でなあ、あんまりしゃんとはしとらんけど、正直なええ奴じゃ。その「なんでも屋」の紹介状を持って来たもんじゃけ、お前たち夫婦を信用したんじゃが、……その乞食の風来坊が、おれの跡を継いで、こげえ立派になろうなんて、そこまでは、おれも思わんじゃったよ」
「みんな、親方のおかげです」
「なんの、おれのおかげがあろうかい。おれみたよな、腑抜けの呆作は、人のためになったことなんて、一回もありゃせん。それどころか、おれが、今、こうして、安閑として居られるのは、玉井、みんなお前のおかげじゃと思うて、いつも、家内と二人で、感謝しとるぞ」
「なにをいわれますか。こんなことでは、わたしの親方に対する御恩返しは、足りないのです」
それから、なお、十分ほど、雑談した後、永田家を辞した。