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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
わが家へ急ぎ、番傘を雨がはげしくたたく音を聞きながら、
(親方の家が、はじめて、家庭らしゅうなったわい)
微笑のわく思いで、そんなことを考えていた。そしてそれは、やがて、自分たちにも子供が出来る、その日のことを思う、不思議に楽しい感慨に、一直線に続いていた。
翌朝、「飛鳥」の仕込みの娘が、森新之助の手紙を持って来た。仲直りの日取り通知状である。金五郎をはじめ、小方連中は、仕事に出て、留守だった。
マンが、受けとった。
「女髪結い処」という看板のうえで、黄色い蝶と、白い蝶とが、さっきから、二匹、しきりに戯れている。もつれあいながら、舞いあがり、くるくる廻り、また下って来る。看板の上部と、軒場の桶との間には、大きな蜘蛛が巣をかけて、獲物のかかるのを待っている。二匹の蝶は、なんの警戒心もなく、無我の境で戯れているうち、ときどき、網の線に触れる。中心にうずくまっている蜘蛛が、その都度、走りだしそうにするが、蝶が網に引っかかりはしないので、あきらめたように、いまいましげな様子で引っかえす。
「あの蝶々、危いわねえ」
お京は、さっきから、気にかかってならないらしく、独り言のように、呟いた。