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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(そんなら、蜘蛛は?……)
蜘蛛は、この席に、一杯、うようよしている――お京は、そんなことを考えだすと、不意に、不安がおこって来て、手足の乱れを感じた。動悸さえ、打つ。
「おい、玉井」
大庭春吉が、金五郎の袖を引いた。
「はい」
「踊っとるあの女、二日市の武蔵温泉のときの女じゃないか」
「よく似ていますなあ。わたしも、そうかと思いました。でも、ちがうようです」
「そうかな? どうも、あの女のような気がするが……?」
金五郎を愛している大庭春吉としては、もし、武蔵温泉の女であったならば、警戒しなくてはならぬと思っているのであった。旅先ではともかく、地元では、いろいろと困った問題が生じて来るのである。
友田喜造は、お京の艶冶さを、うっとりとした眼つきで眺めていたが、盃をおくと、そっと、仲居を呼んだ。
「なにごとでしょうか?」
「あの女、なんという妓かね?」
「お京と申します」
「気に入った。今夜、頼むぞ」
「さあ、……? お京さん、どう、いいますか?……」
「どういうも、こういうもあるか。芸者じゃないか」
それを、染奴が、眼を光らせて、聞いている。
お京の「梅にも春」が、拍手のうちに終ると、すぐ、宴になった。