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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「吉藤の玉井です」
「ああ、金さんじゃなあ。ちょいと、お待ちいな。うちのも、あんたの来るのを、さきにから、待っとった。じき呼んで来るけに……」
内儀と入れちがいに、主人があらわれた。色の青い、小柄な中老人だが、辣腕な商人として鳴りひびいた男である。金壺眼の奥に、狡そうな淀んだ光が沈んでいる。
すぐに、商談がはじまった。店先の框に、腰を下した二人の間に、算盤が置かれた。
この取引が、うまく行くか、行かぬかで、玉井家の運命がきまる――父が、自分を使いに出した責任の重大さを考えると、金五郎は緊張せずには居られなかった。
算盤の玉を、四つ、下からはねあげておいてから、じっと、※の顔色をうかがった。
腕組みしたまま、思わせぶりに、※は、にやにや笑っている。いつもなら、電光石火に、値の交渉が行われて定まるのだが、どうしたのか、※は、返事をしない。金五郎が、算盤の玉で示した値段にも、さほど関心を持っていないようにすら見える。
金五郎は、すこし、じれて来て、
「どうですか、この値では?」
それでも、黙っているので、
「これ以上は、一銭もまからんですよ。早う、手を打って、金を渡しなさい」