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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「いいえ、終列車に、ちょうど、間に合います。……それじゃあ、どうぞ、留守を、よろしゅう……」
永田夫婦が、見舞と餞別とをやるつもりで、声をかけたが、マンは、逃げるように、深夜の奥に、去ってしまった。
時次郎は、マンが出て行くと、ランプを持って、階段を降りた。
源十や、二三の者も眼をさましていて、一緒に行こうとしかけたが、押しとどめた。子分連中は、暗闇の中で、気づかわしげな顔を突きあわせている。
わざと、足音を高くして、寝室に近づいた。
「オヤジさん」
と、呼んでみた。
返事はなく、かすかな呻き声が聞える。
時次郎が入ると、ランプの明かりで、朦朧とした意識を呼びさまされたものか、引っくりかえっていた金五郎は、顔を、光の方へねじ向けた。青ざめた顔が、一杯に、水で濡れている。
うっすらと、眼をあけて、
「マンか?」
「大川です」
「時やんか?……咽喉が、乾いてたまらん。ラムネをくれ」
「ちょっと、待って下さい。貰うて来ますけ」
時次郎は、襖をしめて、部屋を出た。二階の踊り場のところにかたまって、下をのぞいている源十たちに、
「もう心配なことはないけ、寝なさい」そういいおいて、玄関から、表に出た。