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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(一杯、食った)
唇を噛んで、息をのんだ。
「こがいなええ話、めったに、あるもんじゃないぞな」
してやったりというように、※は、にたにた笑って、返事をうながす。
黒石家から、金五郎を養子に欲しいという申し入れは、もう、長い話である。当主黒石幸作は、潮見村で一二といわれる分限者だが、子供が一人しかない。それが、娘で、角力取りのような大女のうえに、すこぶるつきの醜女と来ている。どうしても、婿養子をしなくてはならぬけれども、来手がない。女には眼をつぶり、財産目あてで来ようという者もないではないが、そういうのは黒石の方で気に入らない。身体が頑健で、仕事が出来、男ぶりも十人並、親を大事にし、娘を可愛がってくれる男が欲しい。その白羽の矢が玉井家の三男坊、金五郎に立てられたのである。
「村中見わたしても、金さんをおいては、他に一人も、これと思う男は居らんでなあ」
黒石幸作は、そういう。中風が出て、すこし不自由な身体を、自身で、何度も、玉井家に運んで来た。
父卯八や、兄卯太郎は、先方の莫大な財産に、食指がうごかないでもなかったので、
「どうじゃ、金坊、黒石に行って、ヤス坊を嫁にして、村一番の物持になるかい?」