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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(こうまで、腐った心になっとろうとは、思わんじゃったが……)
門司以来、兄弟分として信頼しあって来た唯一の親友であったのに、訣別しなくてはならぬときが近づいたか? ――と、金五郎は、いいようもない寂寥感と、孤独感とにつつまれて、気が滅入った。
「オヤジさん、永田の親方がお見えになりました」
俊次が、取り次いで来た。
「今ごろになって、風邪を引いたそうじゃないか」
永田杢次が、にこにこ顔で、入って来た。ヨネと、息子の茂次平とが、後につづいている。
数日が、経った。
金五郎は、虚脱したような気持で、嘗て、経験したことのない、索漠とした毎日を過ごした。身体の調子は、すぐに恢復したので、仕事にも出たけれども、なにをやっても、まるで、張りあいがないのである。
マンのいない家の中は、あたかも、歯の抜けてしまった口のようだ。そして、それは、そのまま、金五郎の心に、似ていた。
なにもかもが、奇妙な風に、狂ってしまった。
(マンといっしょに、久しぶりに、故郷に帰って、道後の湯に、ゆっくり、入るつもりじゃったんじゃが……)
それも、もう、一人では、出かける気持にならなかった。