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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

命

かっと照りつける太陽に、汽船の鉄板からは陽炎が立ち、仲仕たちは汗みどろである。洞海湾内の水は青く、浮標を拠点にして、数十羽のカモメが魚をねらって、群れ飛んでいる。ときどき、海面にボラがはねる。

タネが一くさり歌い終ると、待っていたように、艀の船頭が、銅鑼声をはりあげて歌いだした。

沖のゴンゾが

人間ならば、

蝶々トンボも

鳥のうち……

「こン畜生」

棚に立っている「六ゾロの源」が、舳にしゃがんで、帆の修繕をしているその船頭を、団栗眼をむいてにらみつけた。それから、歌いだす。

船は破れ船、

船頭は片目、

艫の垢引きゃ、

カサ頭

船頭の息子らしく、十二三の男の子が、竹ポンプで、しきりに、艀にたまった垢水を汲みあげている。鉢のあいた頭いっぱいに、吹き出ものがしていて、それに、蝿が四五匹、とまったまま動かない。

仲仕たちはげらげら笑う。子供はなんで大人たちが笑っているのかわからないが、ふりかえって、きょろきょろしながら、自分も笑った。また、どっと、新たな哄笑。

船頭は、いまいましげに、しかし、心から怒っているわけでなく、自分も笑いながら、また、仲仕をからかう文句を歌ってやりかえす。