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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

それが、金五郎のいることを知っての、聞えよがしであることは明瞭だった。

二つほど間を置いたテーブルに、五六人の客が、金五郎たちの入って来る前から、洋食をつつきながら、ウィスキーを飲んでいた。芸者が二人まじっている。言葉を発した筒っぽ袖の男は、金五郎に背を向けていたので、誰かわからなかった。けれども、それが、友田喜造のいる共働組の誰かであることは、容易に想像された。

金五郎は、その席にいる芸者の一人の顔を、見たことがあるように思った。

(染奴だ)

と、すぐに気づいた。

「なんぼ、玉井が謀叛人ちゅうたって、命は惜しいにちがわんからなあ。うちの親分に楯ついて、組合作ったら、どげなことになるか、玉井が一番よう知っとろうだい」

筒袖の男は、まだ、つづけている。

「大将、出ましょう」

いたたまらなくなったように、胡蝶屋豆八が、金五郎の耳にささやいた。

「うん」

女給を呼んで、勘定を払った。もう千鳥足になっているデッキ番を支えながら、その部屋を出た。背後に、男と女と入りまじって、爆発するように、嘲るように、けたたましく、笑う声が聞えた。

「突貫亭」を出た。門のガス燈が青白く、あたりは霧でもかけているように霞んでいる。