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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
たでた。
四隻ともよく船裏を磨き、火で焙って、コールタールを塗ると、仕事は終りである。あとは、泳ぐ者、魚を釣る者、干潟で、マテやアサリ貝を取る者、酒をのむ者、寝ころぶ者、など勝手放題、ゆるやかな波がよせてはかえす島の海岸で、時間をすごした。
褌ひとつで、金五郎は泳いだ。沖合に出て、左手の蓊鬱と繁茂している中ノ島の大樹と、右手に望まれる緑屋の二階座敷とを見くらべながら、奇妙な感慨に浸っていた。
(あそこの二階で、お京と話をしながら、島の樹が風に鳴っているのを聞いたんじゃが、……その晩から、マンは居らんようになってしもうた。お京も、どこかへ行った)
そして、海水に洗われる左腕の青い龍と、その前肢の菊の花とを眺めて、さびしいような、腹立たしいような、滑稽のような気持で、波に浮いていると、すぐ耳のそばで、
「オヤジ」と、呼ぶ声が聞えた。
ふりかえると、谷口林助である。あまり水練の達者でない林助は、伝馬の船板をブイにして、浮いている。それで、金五郎のところへ泳ぎ寄って来たらしい。金五郎が微笑を返すと、
「わしに、四五日、暇をおくれんか?」
「どうして?」
「おマンを、わしが呼び返しに行って来ようかと思う」