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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
眼を皿にした。
あまり敏捷でない老掏摸は、幾度か群衆に捕えられた。追手の場合もあれば、正面からの弥次馬の場合もあった。そのたびに、必死に暴れまわって、すり抜けたが、次第に弱り、帯がとけ、着物が剥がされて行った。四月であるから、寒いことはない。それどころか、泥棒は汗だくだ。
「ふん縛れ」
掏摸が老いぼれのうえに、何も兇器を持っていないことを知ると、群衆は面白がって追跡する。
とうとう、裸にされてしまった。自分でなったのかも知れない。
金五郎は、びっくりした。
痩せさらばえた身体の全面に、彫青をほどこしている。胴巻と褌一つになってしまったのに、まるで青黒いシャツでも着ているように見えた。そして、その彫青は般若と大蛇。
金五郎には、はっきりとした記憶があった。忘れようとしても忘れることの出来ない、道後温泉の男。
(般若の五郎じゃ)
金五郎は、あたりを見まわした。
逃げる途中に、老掏摸がぬぎすてて行った帯、着物、鳥打帽、草履、などが方々に散乱している。縞模様の煙草入れも、彼の物かも知れない。いずれも群衆の土足に踏みにじられて泥まみれだ。金五郎は、それらを、一つずつ、探しながら、拾い集めた。