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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
と、男は眼を光らせた。「今夜、盆につきあわねえか。仲間が四五人来てるんだ。面白いぜ」
清七は、いよいよ、悪漢が本性をあらわして来たと思った。前よりも力をこめて、金五郎の尻をつねった。
金五郎は、その手を、湯の中で、はねのけておいてから、
「三ン下さん、ぜひ、今夜仲間に入れてつかあさい」
と、いった。
「いいとも、いいとも。そっちの兄ちゃんと二人で、やって来な」
そして、盆茣蓙の開帳される筈になっている場所や、時間を、詳しく教えた。それから、急に、「ああ、うっかり長湯して、のぼせてしまった」と、まるで、オットセイが水から飛びあがるような具合に、あわただしく、「神の湯」から、出て行った。
白くたちこめる湯気の中に、背に彫られた恐しい般若の面が、すっと消え、ちょっとの間、妖しい雰囲気がただよった。
「金坊、お前、やめとけよ」
「かまん、かまん。なんでも、知らんことはやってみるんじゃ。勉強じゃけに」
「そうけ?」
金五郎は、手拭で、白い身体をゴシゴシこすりながら、遠くを見る眼になった。
――港。
――自由の天地。
――支那大陸。
金五郎が、支那へわたりたいと考えはじめたのは、もはや、二年や三年のことではなかった。