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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
せまい村の中で、こせこせと、ちっぽけな争いをくりかえしている息苦しさ、馬鹿々々しさ。伊予蜜柑の産地として、聞えているとしても、その面積は猫の額ほどにすぎぬ。金五郎の眼には、一望千里の間、ふさふさと、あらゆる季節の果実をみのらせた大果樹園が浮かぶ。
――どこか、港に出て、基礎ができてから、大陸へ渡ろう。
おさえがたい青春の血は、すでに、自由を求める漂泊と放浪との思いを、たぎる情熱と化せしめていた。その金五郎の空想の中に、
――龍。
突然、奇妙な伝説の動物が、荒々しく登場したのである。
(龍になって、昇天するんだ)
湯槽の一角に、蛇口があって、そこから、間断なく、豊富な湯がはきだされている。その湯口は、青銅で彫られた龍である。これまで、注意したこともなかったのに、今、金五郎は、その龍が、自分になにかの謎をかけ、話しかけているような気がした。
(あの、変なバクチ打ち奴、つまらんことをいいやがる。からかってやったら、本気にしやがった。誰が、親分なんかになるものか。彫青なんて、馬鹿にするな。龍になり、雲と風とに乗って、大空を翔けまわるんだ)
金五郎の大きな眼からは、狂気に似た光が、ギラギラと発散した。