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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
あの悪漢を出すときに、いてくれないと、送庁して投獄することにならんともかぎらん。それでよければ、お引き取りになって結構です」
と、恩に着せたり、脅迫したりするようなことをいう。
般若の五郎が、やっと釈放されたのは、日の長い春の日が、もうすっかり暮れきってしまってからであった。金五郎は、空腹で、腹の中がしきりに、ググウ、グウ、と鳴りつづけている。
二人は、夜の街を、無言で、歩いた。宮城の濠端に出た。
聳えたつビルディングが、無数のどの窓にも煙々たる電燈をきらめかしている。その、光の絣模様のようにつらなっている美しい風景が、金五郎を、お伽の国に入りこんだような、幻想的な気持にさせた。古びた石垣の静かなたたずまい、土堤の形のよい松の姿、かすかな漣を立てている濠、はねる鯉、柳の並木、空からさすやわらかな月光――そういうものが、すこしずつ、警察署でのささくれだった金五郎の気持をほぐして行く。
二重橋が夜目にもかすかに認められるところまで来て、金五郎は、立ち止まった。
「五郎さん」
「へい」
般若の五郎も、もう、自分の身元引請人になってくれた奇妙な田舎紳士が、何者であるかを知っていた。