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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
畳も、畳というよりも、荒れた芝生のようだ。六畳のまん中に、一閑張りの朱机が一個、硯箱、インキ壺、雑然とした書類の束。そして、原田は、勝則が訪れるまで、その机に向かって、なにかの原稿を書いていた模様だった。内も外も同じというほどは、屋内は雨が降ってはいない。方々、雨漏りがしていて、家内のいたるところに、洗面器、盥、釜の類が置いてあるけれども、六畳の座敷は、ときどき、天井から雫が落ちる程度だ。
原田雲井、五十八歳。「タコノバッチョ」と呼ばれている、禅宗僧が托鉢のときに用いる、大きな笠を被っている。六尺豊かで、肥満した巨躯、髭の中に顔があるといった方がよいほど、顔全体を包んでいる長い髭、ロイド縁の眼鏡、その下にある細い眼、磊落に笑うときには、人のよさそうな童顔になるが、その顔全体には、いいようもない頑固一徹さ、太々しさのようなものが漲っていた。袖口の切れた、色のはげた黒の背広を着ている。天井から落ちる点滴が、バッチョ笠を鳴らす。
「悪家主の外道されが、とうどう、屋根の瓦ば剥いでしまい居ってな」
原田は天井を見あげて、身体中をゆすって笑った。
「僕のところは、天気になりました」