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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

それが、勝則君、今度の選挙に打って出ろうというとばい」

「森さんの息子さんは、僕と小学校の同級生でした」

「九市じゃろ?」

「はあ」

「その九市が、また、碌な者じゃなか。若い癖して、鬼高利貸になって、こいつも、親父に倣うて、妾を持っちょるちゅう話じゃ。なんでもよか。わしは、天下の悪家主、悪高利貸、悪質屋など、庶民の敵を征伐することを、生涯の仕事と定めとるとじゃけん、どげん酷い目に逢うたって、あくまで、やる。腕力ではのうて、正義人道と、言論と、法律とが、わしの武器たい。ところがその悪者の大部分が、この若松じゃあ、民政党、吉田一家と来ちょる。ちょいと、うるさい。ばって、男一匹、後にゃ引かれん。命が危かけん、用心しなさい、というてくれる者も多か。昔、品川信健が殺されたが、あの二の舞を踏まんように、と、忠告してくれる者もある。ばって、用心せえたって、用心のしようもなか。町角を曲るときに、すこし大廻りするくらいのこったい、殺られたときは、天命くさ。これまで、頑固が通して来た老いの一徹、屋根瓦を剥がされたくらいで、旗を巻くもんかい」

陋巷の豪傑は、また、笑う。

玉井金五郎夫婦が、この原田雲井と近づきになったのは、戸籍のことからであった。