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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

井上安五郎は、まだよく知らない様子であった。

「わたしも、そんなに、深い交際はないんじゃけど、これまで見たところ、なんぼか、骨ッ節のある男のようにある。小倉の競馬場で、誰かを殺して、刑を終えて帰ってから、新地で、料理屋をしとるんじゃが、「飛鳥」の森新之助が兄弟分のごと、しとるらしゅうて、わたしも知りあいになったんじゃ。まだ、四十には間のある、身体は弱そうな男じゃが、……」

「玉井さん」と、原田が、「森君と、その島崎とが兄弟分なら、森君はあんたの弟分じゃけん、あんたも島崎と兄弟分ちゅう理窟になりゃせんな?」

「それは、そうじゃけんど、そこまでは考えとらん。森新之助が島崎と仲ようするのを、わたしが止めるわけにも行かんので、黙っとるだけじゃ」

「この若松は、変てこなところばい。人を殺して帰って来さえすりゃ、幅が利く。顔役になって売り出せる。それで、まだ青二才の無法者どもが、まるで、それをやくざ憲法のごと考えて、人を殺したがる。おまけに、暗殺命令を発する本部がある。命令一下、品川信健を殺した西中宗之助は、監獄から出て来ると、恩賞に、小い炭坑を貰うて、顔役になった。