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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

かんじんの命令を降した張本人は、なんごとものう、相かわらず、大親分で君臨しちょる。代議士になっちょる。面白か街たい」

「原田君、そう簡単にはいいきれんところもあるばい。人を殺した者が、みんな、悪人とはかぎらん。また、殺人罪をおかしたところで、それで売りだすともかぎらん。森新之助でも、「六ゾロ」の松川源十でも、そうじゃ。島崎勇次君も、なんか、のっぴきならん、売られた喧嘩じゃったらしい。そこが、森新之助の共鳴したとこかも知れん。無論、殺人なんて、人間としての最悪の罪、絶対におかしてはならんこと、……じゃけど、人間は、してはならんことを、どうしてもせにゃならんこともある。いや、逆上して、無意識に、してしまうこともある。……こんなこと、あんたにいうのは、釈迦に説法じゃが、……」

次第に、しんみりした語調になる金五郎は、東京での恐しい出来事を思いだしていた。

「筑紫館」の家族風呂に、友田喜造と二人で入っていたとき、

(この男を殺してやろうか)

唐突に、その悪逆の心が兆したことがある。愕然として、大あわてで、悪魔の想念を追っ払ったけれども、人間の心の奥底に棲んでいる、思いもかけぬ鬼の存在に、慄然としたのであった。