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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

また、うるさいこッてす。中立連盟は、何時、立候補の届出をなさる?」

「四五日うち、出そうかと思うとります」

「お手柔かに頼みますばい」

「こちらこそ。……民政党の方は、何時?」

「届出ですか? さよう、こっちはそんなにあわてんで、十八日の大安に、十七人、枕をならべて、出馬することにしちょります。……それでは」

矢崎新兵衛が、鷹揚な態度で去って行くと、原田雲井が腹をかかえて笑いだした。

「フワアハッハッハッ、やっぱり、女郎屋の親父だけあって、いうことが振るうちょるばい。枕をならべて――は、よかったなあ。傑作じゃ。轡をならべて――のつもりじゃったろうが……」

みんなもついて笑い、たちまち、矢崎の名言が酒の肴になった。

表は、次第に、黄昏れて来た。場内は電燈で眩しいほど明かるい。

プログラムが進み、いよいよ、

「清元・夕立」の幕が開いた。

置舞台の正面に、屋形舟が一隻、その右に、しだれ柳、黒幕の背景、右掛りに赤毛氈の床がしつらわれて、黒紋付姿の地方姐さん連が五人、見台に唄方が三人、三味線が二挺。はじめ、幕が引かれたときには、舞台には誰もいない。

普通の観客には、この舞台も、プログラムの一幕にすぎなかったけれども、金五郎、マン、勝則、原田、等にとっては、それぞれに異ってはいるが、特別の関心をそそるものであった。