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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

そして、

(お京じゃ。お京にちがいない)

不審と昏迷との果てに、そのことを、巨大なためいきとともに、はっきりと、うなずいていた。

プログラムを見ると、踊り手は妻太郎・光丸となっている。しかし、妻太郎は「飛鳥」にいる芸者なので、金五郎もよく知っている。全然、ちがう。出演当日になって、配役が変更になることはあり勝ちだから、妻太郎でないことは大して不思議ではないけれども、それがお京であるとすれば、胡蝶屋豆八ではないが、「大きな大事」といわなければならなかった。

しかし、考えられないことではなかった。お京は変幻自在、唐突に、思いもかけぬ場所に出現して、金五郎をおどろかすことの名人だ。再三、その経験がある。東京では、般若の五郎に邪魔されて、逢えなかったが、手紙を寄こして、「いつか、近いうちに、かならず逢える日がありましょう」と書いて来ている。こっそりやって来て、昔なじみの「飛鳥」の君香に頼んで、不意に、妻太郎と代ったのかも知れない。ただ、年齢が若すぎるけれども、舞台化粧をすれば、二十や三十の歳を隠すくらいはなんでもないことであった。この「夕立」の前には、六十近い美代吉という婆芸者が、八百屋お七に扮して、その水々しい若さで、観客をおどろかしたばかりだ。