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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
今度の選挙はどうも大変らしゅうて、オヤジも危いと聞いたもんじゃけ、心配で出て来ました。こんなわたしでも、動けば何票かの加勢は出来ますけ」
「そら、おおきに」
大川時次郎は、現在、直方市に住んでいる。小さい炭坑を経営していた。
二十五年も前、家出したマンを呼び戻しに行くといって出た時次郎は、広島には帰らず、反対の方角、筑豊の炭坑に行って、坑夫になった。出発したときには、そんなつもりは毛頭なかったのに、下関から、山陽線に乗る段になって気が変ったのである。マンを呼び返すことよりも、マンに逢うのが怖くなったのだ。時次郎は、金五郎に対する信頼と、マンへの思慕と、自分の立場とに苦しんだ。そうして、一人決心をして、故郷へ帰るのをやめ、炭坑へ新しい人生を求めたのであった。
そして、幾年が過ぎた。誠実で勤勉な人柄が認められ、努力の結果、小坑主となることが出来たのである。
二三年前から、ふたたび、玉井家に顔を出すようになっていた。
マンは、女とともに、公会堂を出ると、玄関脇にある大きな石碑の前まで来て、立ちどまった。
(さて、どこに行ったものか知らん?)
と、思案した。