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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
原田雲井と、猫婆さんとが入って行くと、事務室の中は、がらんとしている。今朝の開票時から、七〇票くらいまで出たときには、足の踏み場もないほど、人間で埋まっていた。そして、がやがやと賑やかだったのに、いま残っているのは、七八人、それも、元気のない顔で、誰も口をきかない。選挙事務長の大石が、金五郎の前に正坐して、悲憤の面持で、膝詰めしているだけだ。原田の顔を見ると、さらに、勢を得たように、
「なあ、原田先生、玉井さんは、まだわからん、て、いわっしゃるけんど、あげな風じゃあ」と、壁にはりだしてある得点表を、右手で示して、「山が動いたって、引っくりかえしは出来んでしょうが?」
「そうたいなあ」
原田も同感だったので、そう答えて、壁の方へ歩いて行った。立ちはだかり、睨みすえるようにして、表を見た。
四十五人の候補者名のうえに、刻々に報じられる票数が、赤インキで書きこまれてある。青インキで、「確」と、大きく、帽子のように、上部に一字あるのは、当選確実者だ。最高点は、矢崎新兵衛、二七四票、その他、民政党連中は、ほとんどが、「確」の冠をかぶっている。最低点は、中立の井上英一、二五票。