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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
(玉井の奴が、そそのかして、逃げやがったにちがいない)
前夜、金五郎を残して、「明日、喧嘩になったら、お前が指揮をとれ」と命じたところ、金五郎は、「わたしは、喧嘩は下手ですから」といって、どうしても承引しなかった。のみならず、「喧嘩は嫌いですから、喧嘩になったら、逃げだします」などとも、いったのである。それでも、現場に行くことだけは、堅く約束したのであった。
助役は狼狽の極に達した。とっさに、人選を変更して、昨夜、指名されなかった仲仕を、三人、別に起した。
マンは、兄林助の家の一部屋を借りていた。襖で仕切られた四畳半であるが、女一人には充分だ。おまけに、狭くとも、自分一人の部屋を持つことは、生まれてはじめてである。
仕事着をつけ、林助と二人、集会場である桟橋の浜に急いだ。
「おマン、玉井の奴が、ケツ割ったらしいぞ」
「ふウン」
マンは、問題にせぬ顔で答えたが、その顔に、かすかに、なにかの動揺が感じられた。
集合場で、人影と提灯とがちらつき、しきりに、けたたましく、喚いている。
「おうい、急げ、急げ。大村組の伝馬船は、もう、漕ぎだしとるぞう。出遅れたぞう。