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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
二十五六年も前、夫が、これと寸分違わぬ恰好で、自分の前に突っ立ったことがある。大川時次郎が来たときだ。「間男、見つけた。打ち斬ってくれる」といって、団栗眼をギョロギョロさせた。あのときはランプ、今は電燈、そして、金五郎が年をとっているだけの相違である。
マンは、あらためて、長い歳月の流れを思ったが、同時に、腹の底からこみあげて来る笑いを押し殺すのに、一方ならぬ苦労をした。
(また、お父さんがお芝居をしとる)
隣りの部屋から、襖を開いて飛びだして来たときから、マンは、そのことを感づいていた。
(あのときも、そうやったわ)
ガタッ、ピシャッ、と、家鳴り震動するほどのはげしさで開けられた襖、そのわざとらしさ、おどけ好きの金五郎。
「勝則」
と、さらに、威圧的な語調で、呼んだ。
「はい」
「もう、間もなく、夜が明ける。一番の汽車で、すぐに、博多に行け」
意味がわからず、息子は返事が出来ないようだった。なお、頭を落して、下唇をしっかりと噛んでいた。
「ええな、わかったな?」
「はい」
「たしか、一番は五時十七分の筈、まちがいなく、遅れんで、乗るんじゃぞ」
「はい」
「よし、もう、二階に帰れ。