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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

暴力

ひるがえる五色の尾にたわむれるように、鳶が一羽。

重い足どりで、うつむき加減に歩いていた金五郎は、声をかけられて、普請場へ寄って行った。チョッキの上に、「玉井組」の半纏を着ている。

「新公、お前まで、大工をやっとるのか」

「いんや、大工をしとるわけじゃない。表玄関にかける座名の看板に、ちょっと、いたずらしょるんじゃ。おれが辰の年じゃもんじゃけ、昇り龍を彫りよる」

金五郎はのぞきこんで、眼を丸くし、

「ほう、うまいもんじゃないか。いつ、そげな芸当を習たか」

「芸当ちゅうほどのもんじゃないよ。龍に見えさえすりゃ、ええとじゃ。……見えんかね?」

「大見えたい」

「そうそう、お前も同じ辰年じゃったなあ。実は、金さん、お前の彫青の真似してな、この龍、……見てくれ。肢に、花をつかんどる」

「こりゃあ、なんの花かね?」

「まだ、形になっとらん。今、彫りよったところたい。椿の花じゃ」

「ふウン」

金五郎は、新之助が、女房を椿と観じたのか、と、奇妙なくすぐったさを覚えた。自分はマンを菊と思い、勝則は良子を百合と考え、新之助は君香を椿と見ている。そして、それらの花々が、いずれも、龍と結びつけられていることに、偶然とはいいがたい宿命のようなものを、金五郎は感じた。