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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
金五郎の言葉がやんだ。しいんとなる。
呼吸をひそめていたマンは、息苦しい沈黙に耐えかねて細い声でいった。
「もう、いうことはないの?」
「咽喉がかわいた。ラムネをくれ」
マンは、びっくりした。
けたたましい笑い声が、暗黒のなかで、爆発した。飛びあがった猫が、一散に逃げて行った。金五郎は転げまわって、笑っているようである。
マンは、夫が発狂したのかと思った。
「お父さん、……あなた」
夫の身体をゆすぶった。それでも、笑いがとまらない。
しかし、金五郎は、はじめから、全部、知っていたのである。マンの呪禁の方法は、前に、何度も聞いている。自分の国にも似たような魔術がある。やはり、便所の草履を男の胸にのせ、下帯を投げて、それを巻きとれば、それにしたがって、べらべら、しゃべりだすというのである。しかし、金五郎はそんなことは信じない。けれども、呪禁好きのマンに追随して、おかしさをこらえながら、得意の芝居を打ったのであった。
(でも、よかった)
と、思う。まともには話しにくいことである。深夜の奇怪な対決が、悲劇を喜劇的にすることによって、たしかになにかを雲散霧消したのである。