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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
の事は急に東京の市中でやかましく評判されるようになった。
一週間ほど前の朝の五時ごろ、公園の園丁長が例の如く宿酔のおくびで咽喉を鳴らしながら、花壇の中の小径を通って池の傍まで来ると、うっすらと朝靄に包まれた噴水の鶴が、この時ハタハタと羽搏きをしたように見えたのである。この人物は元来非常な大酒家で、二六時中森羅万象の中に異変を見ているのだから、これも多分昨夜の泡盛のなす業であろうと思い、格別怪しむようなこともなくそのまま見過ぎて池の傍を立去ろうとしたとたん青銅の鶴は世にも清らかな声で歌を唄い出したのである。
それは、さながら西洋風の舞踊曲の一節のようなもので、どのような悲しみのある人の心も晴々と浮き立たせずにはおかぬような愉しげな旋律であったのである。園丁長はアッケラカンと口を開いて鶴の口元を眺めていたが、鶴は園丁長の当惑に頓着なくなおも喨々と唄い続けていたが、それが約二分ほどののち、無器用な蓄音器のように急にハタと黙り込んで了った。園丁長は一方心の優しい人物でこの公園の一木一草ことごとく自分の友人だと思っているのだから、この時感嘆の余り思わず噴水の鶴に向ってこんなふうにも声をかけたのである。