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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页
細野の部落が落木の間から見おろされる。すべてで三軒の家が馬蹄状の半島の背によりそい、周りは丹念に耕やされた石の畑に、青菜が調子はずれに碧い。
赤ガレ峠の山鼻を廻ると、稲又谷の領分に入る。稲又の四軒の人家、高い尾根に絶え入りそうな炭焼の煙など、裸の梢越しに見え隠れする。黒カレの薄黒い岩崩れが、山骨を剥き出す所を横切る。しかしこの辺は人が最近通るとみえ、踏跡はハッキリしている。尾根を廻った亀井滝の上に、伐採の小屋があって、土間に大きな榾火がいぶり、天井にむささびの皮などつるしてある。沢べりに大鋸を控えて、眼鏡をかけた老爺が鑢を使っていた。その眼鏡がキラリとひかって、――西沢かえ、道はひでえぞ、早く河原へ下りるだナァ……と相手欲しげな老爺の、休んで行けとすすめるのを後に、さきを急ぐ。そこに蔭を落す椈や唐檜に、病人が医者の切開刀を盗み見るほどの神経がないとすれば、幸いなるかな。
はりつけの獣の挿図
これから先きは、人の用が無くなるので、果して道は急に悪くなり、片はしから自然に帰ろうとしている。丸木橋も性が抜けて、うっかり乗れぬ。崖崩れには中断される、倒木がしきりと通せん坊をする。