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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

がらん堂の一隅の挿図

正月半ば頃までは、雪はまだ薄かった。しかし寒気はすこぶる厳しく、例年より暖か目と言われたこの冬も、ここではあらゆる物が、みな凍った。机上の墨やインキはもとより、いま、盆に伏せたばかりの茶碗が、もう取れぬ。湯で顔を洗ってから、階上に戻り、濡らした髪に櫛を入れたら、サラサラと白い粉。おやフケかな――と思えば、何の、髪の水気が雪に化けたので。沢水は、むろん凍結して、懸け樋に水は通わないから、万事氷を溶かして弁じるのだ。したがって、煮炊きにも湯茶にも、しぜん、氷に含まれた草木の葉や実、蘚苔、地衣の類いが煎じ出されて、いやでもそれを服用するわけ。仙骨を養うには、持ってこいの適薬だろう。

晴れたら、思い切って窓をからりと。お山を拝しつつ、私は謹んで筆を執る。ここの富士は、大よそ左右斉整。八字の斜線が、無限を思わす大弧を、冬天へ一気に引き放つ。しかも、正面真一文字に、大沢の大崩壊を曝露し、富士としては優美よりも端巖、むしろ威力に勝り、時に幻怪味さえ帯びる風姿。雪は既に、過半身を飾っているが、岩骨は雪を払ってゴツゴツ裸出し、山肌は荒くかつ堅い。