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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

春雪写山行「旅」1940(昭和15)年4月<br>黒部川峡谷の話「山岳 第十二年第一号」1918(大正7)年2月<br>枯木の美と怪「国立公園」1952(昭和27)年3月<br>雪山と廃道「山 二巻二号」1935(昭和10)年2月<br>七面山冬ごもりの記「山小屋」1947(昭和22)年<br>黒部川初遡行の追憶「山と渓谷」1939(昭和14)年7月<br>大雪山あれこれ「国立公園」1955(昭和30)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 页

青空文庫

よく聞きただしてみると、やはりそれは乗鞍のではなく、ここからよく見える、別の新しい爺さんのことだとわかった。御岳の時の予感も、こうまで当ろうとは。

白馬大日岳の種蒔き爺さんの挿図

ああ又初対面の爺さん――労せずして又私はこの光栄を授かったか……雲の晴れ間を待つ私の胸は高く鳴って、初めて会う今度の爺さんはどんな姿をしているだろう? 雲の奥にいろいろ想像を馳せていると、待つ間も決して長くは感ぜず、むしろそれを楽しむ気もちだ……。やがておかみさんが指さしたのは、「代馬」よりズッと北東に離れた、連峯の一突点の大日岳であった。その右寄りの斜面に、頭を稜線に触れそうにして、このはにかみやのお爺さんはひそやかに立っていた。もはや大分形が崩れたと、おかみさんは言うが、なるほどとうなずけるだけには、まだ充分残っているように見えた。よくもこんなに、と思うほど前の三人と似ていながら、又いちじるしい個性をこの爺さんは持っていた。それは坊主頭で、笠をかぶっていないらしいことだ。初めから笠は無いのかどうか、おかみさんに聞いてみたら、ちょっと考えて、――無いようだとの答えだった。