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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

しかも二丈余というのはかねてこの地方で言うことと見えて、同じ書物の他の条にもそう書いてある。

ただし山男の身長の遙かに尋常を超えていたことは、他の多くの地方でも言うことで或いは事実ではないかと思う。このついでにほんの二つか三つ実例を挙げてみるならば、『有斐斎剳記』に対馬某という物産学者、薬草を採りに比叡山の奥に入って、たまたま谷を隔てて下の方に、一人の小児の岩から飛び降りてはまた攀じ登って遊んでいるのを見た。村の子供がきて遊ぶものと思っていたが、後日そこを通ってみるに、岩は高さ数仞の大岩であった。それから推して見ると小児と思ったのは、身の丈一丈もあったわけで、始めて怪物ということに気がついた。石黒忠篤君がかつて誰からか聴いて話されたのは、幕末の名士川路左衛門尉、或る年公命を帯びて木曾に入り、山小屋にとまっていると、月明らかなる夜更にその小屋の外にきて高声に喚ぶ者がある。刀を執って戸を開いて見るに、そこには早影も見えず、小屋の前の山をきわめて丈の高い男の下って行く後姿が、遠く月の光で見えたそうだ。山男であろうとその折従者に向かっていわれたが、他日ついに再びこれを口にせず、先生の日記にも伝にも、その事を記したものはなかったという。