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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

二八 三尺ばかりの大草履のこと

しかも佐竹家が率先して夙にこれを崇敬した動機は、すぐれて神通力という中にも、特に早道早飛脚で、しばしば江戸と領地との間に吉凶を報じた奇瑞からであった。従って沿道の各地でも今なお三吉様が道中姿で、その辺を通っていることがあるように考え、ことにその点を畏敬したのであった。神を拝む者はぜひともその神の御名を知らなければならぬというのは、ずいぶん古くからの多くの民族の習性であった。天狗がいよいよ超世間のものと決定してから、太郎坊・三尺坊等の名が始めて現れたことは、従来人の注意せざるところであった。どういう原因でそんな名前が始まったかを考えてみたら、また多くの新たなる答が出てくることであろう。

二八 三尺ばかりの大草履のこと

また山男の草履を見たという話がある。夏冬を打通して碌な衣裳も引掛けていなかった者に、履物の沙汰もちとおかしいとは思うが、妙にその噂が東部日本の方には拡がっている。信州木曾辺はことにこれを説く者が多い。出羽の荘内の山中でも杣人がこれを拾ってきて、小屋の入口の柱に吊して置くと、夜のうちに持って還ったか、見えなくなったなどといっている。上州の妙義・榛名でも猟師・木樵の徒、山中でこの物を見るときは畏れてこれを避けたと、『越人関弓録』