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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
一三 神隠しに奇異なる約束ありしこと
そうして何が故に今なお我々の村の生活に、こんな風習が遺っていたのかを、説明することすらもできなくなろうとしている。それが自分のこの書物を書いて見たくなった理由である。
一三 神隠しに奇異なる約束ありしこと
神隠しからのちに戻ってきたという者の話は、さらに悲しむべき他の半分の、不可測なる運命と終末とを考える材料として、なお忍耐して多くこれを蒐集する必要がある。社会心理学という学問は、日本ではまだ翻訳ばかりで、国民のための研究者はいつになったら出てくるものか、今はまだすこしの心当てもない。それを待つ間の退屈を紛らすために、かねて集めてあった二三の実例を栞として、自分はほんの少しばかり、なお奥の方へ入りこんで見ようと思う。最初に注意せずにおられぬことは、我々の平凡生活にとって神隠しほど異常なるかつ予期しにくい出来事は他にないにもかかわらず、単に存外に頻繁でありまたどれここれもよく似ているのみでなく、別になお人が設けたのでない法則のごときものが、一貫して存するらしいことである。例えば信州などでは、山の天狗に連れて行かれた者は、跡に履物が正しく揃えてあって、一見して普通の狼藉、または自身で身を投げたりした者と、判別することができるといっている。