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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

一六 深山の婚姻のこと

一六 深山の婚姻のこと

昔話の中にもおりおり同じ例を伝えているために、かえって信じうる人が少なかろうかと思うがこれはすでに十七八年も以前に筆記しておいた陸中南部の出来事であってこの小さな研究と深い因縁がある故に、今一度じっと考えて見ようと思うのである。或る村の農家の娘、栗を拾いに山に入ったまま還って来ず、親はもう死んだ者とあきらめて、枕を形代に葬送をすませてしまって、また二三年も過ぎてからの事であった。村の猟人の某という者が、五葉山の中腹の大きな岩の陰において、この女に行逢って互いに喫驚したという話である。

あの日に山で怖ろしい人にさらわれ、今はこんなところにきて一緒に住んでいる。遁げて還ろうにも少しも隙がない。そういううちにもここへくるかも知れぬ。どんなことをするか分らぬというので碌に話も聞かずに早々に立退いてしまったということである。その男というのは全体どんな人かと猟人が尋ねると、自分の眼には世の常の人間のように見えるが、人はどう思うやらわからぬ。ただ眼の色が恐ろしくて、せいがずんと高い。時々は同じような人が四五人も寄り集まって、何事か話をしてまたいずれへか出て行く。