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やまのじんせい

山の人生

柳田 国男

山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页

青空文庫

六 山の神に嫁入すということ

遠野の警察署へ連れてきたが、やはり平気で蛙などを食っているので係員も閉口した。その内に女が朧気な記憶から、ふと汽車の事を口にし、それからだんだんに生まれた家の模様、親たちの顔から名前を思い出し、ついには村の名までいうようになったが、聴いて見ると和賀郡小山田村の者で七年前に家出をして山に入ったということがわかった。やはり産後であって、不意に山に入ったというのであった。親を警察へ呼び出して連れて行かせたが、一時はこの町で非常な評判であった。なお同じ佐々木君の話の中にこの附近の村の女の二十四五歳の者が、夫とともに山小屋に入っていて、終日夫が遠くに出て働いている間、一人で小屋にいて発狂したことがあった。のちに落着いてから様子を尋ねて見ると、或る時背の高い男が遣ってきて、それから急に山奥へ行きたくなって、堪えられなかったといったそうである。

六 山の神に嫁入すということ

羽後の田代岳に駆け込んだという北秋田の村の娘は、その前から口癖のように、山の神様の処へお嫁入りするのだと、いっていたそうである。古来多くの新米の山姥、すなわちこれから自分の述べたいと思う山中の狂女の中には、何か今なお不明なる原因から、こういう錯覚を起こして、欣然として自ら進んで、こんな生活に入った者が多かったらしいのである。