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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
その時も茫としたような気がしたが、えらい声で母親がどなるのでたちまち普通の心持になった。この時の私がもし一人であったら、恐らくはまた一つの神隠しの例を残したことと思っている。
これも自分の遭遇ではあるが、あまり小さい時の事だから他人の話のような感じがする。四歳の春に弟が生まれて、自然に母の愛情注意も元ほどでなく、その上にいわゆる虫気があって機嫌の悪い子供であったらしい。その年の秋のかかりではなかったかと思う。小さな絵本をもらって寝ながら看ていたが、頻りに母に向かって神戸には叔母さんがあるかと尋ねたそうである。じつはないのだけれども他の事に気を取られて、母はいい加減な返事をしていたものと見える。その内に昼寝をしてしまったから安心をして目を放すと、しばらくして往ってみたらもういなかった。ただし心配をしたのは三時間か四時間で、いまだ鉦太鼓の騒ぎには及ばぬうちに、幸いに近所の農夫が連れて戻ってくれた。県道を南に向いて一人で行くのを見て、どこの児だろうかといった人も二三人はあったそうだが、正式に迷子として発見せられたのは、家から二十何町離れた松林の道傍であった。