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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
すなわち神隠しの青年は口が喋々と奇瑞を説かなかったかわりに、我々の説明しえないいろいろの不思議が現われ、それを見たほどの者は一人として疑い怪しむことができなかった。そうして多くの信徒の興奮と感激との間に、当の本人は霊魂のみを大神に召されて、若い骸を留めて去ったのである。およそ近代の宗教現象の記録として、これほど至純なる資料はじつは多くない。身親しくこの出来事を見聞した者の感を深め信心を新たにしたことも、誠に当然の結果のように思われる。ただ我々の意外とすることは、こういう珍しいいろいろの実験をならべてみて、一方が真実なら他方は誤りでなければならぬほどの不一致には心づかず、幽界の玄妙なる、なんのあらざる事あらんやと、一切の矛盾を人智不測の外に置こうとした、後世の学徒の態度であった。もし盲信でなければ、これは恐らく同種の偽物に対する寛容であって、やがては今日のごとき鬼術横行の原因をなしたものとも言いえられる。
江戸の高山嘉津間、和歌山の島田幸安等の行末はどうであったか。今なら尋ねて見たらまだ消息が知れるかもしれぬ。もし彼らの行者生活が長く続いていたとすれば、これらの覚書類は時の進むとともに、幾たびかその価値を変化しているはずである。