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やまのじんせい
山の人生
柳田 国男
山の人生「アサヒグラフ 第四巻第二号~第五巻第七号」朝日新聞社、1925(大正14)年1月7日~8月12日<br>山人考「大正六年日本歴史地理学会大会講演手稿」1917(大正6)年11月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,022 字 · 226 页
家門を中心とした前代の信仰生活を、細かに比較研究したうえでなければ断定も下されぬが、恐らくはこれが神隠しに対する、一つ昔の我々の態度であって、かりにただ一人の愛娘などを失うた淋しさは忍びがたくとも、同時にこれによって家の貴さ、血の清さを証明しえたのみならず、さらにまた眷属郷党の信仰を、統一することができたものではないかと思う。
伊豆では今の田方郡田中村大字宗光寺の百姓惣兵衛が娘はつ十七歳、今から二百十余年前の宝永ごろに、突然家出をして行方不明であった。はつの母親が没して三十三回忌の日、還ってきて家の前に立っていた。近所の者が見つけて声をかけると、答えもせずして走りだしまたいずれかへ往ってしまった。その後も天城山に薪を樵り、又は宮木を曳きなどに入った者がおりおりこの女を見かけることがあった。いつも十七八の顔形で、身には木の葉などを綴り合わせた珍しい衣服を纏うていた。言葉をかけると答えもなく、ただちに遁げ去るを常としたと『槃遊余録』の第三編、寛政四年の紀行のうちに見えている。甲州では逸見筋浅尾村の孫左衛門を始めとし、金御岳に入って仙人となったという者少なからず、東河内領の三沢村にも、薬を常磐山に採って還らなかった医者がある。