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にっき
日記
宮本 百合子
11 一九二五年(大正十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,462 字 · 72 页
自分の著書を、音楽家ブラームスなど、愛読してくれるそうだと書いても居る。彼が、あんな烈しい病苦を意志で、それこそチェホフが「単純に美しく」自己の病苦にうちかったようにうちかち、恢復期のむさぼるような愛、感受性の敏さ、生命力の自覚をもって自己の認識を記録した、その生活力のリズムが、書くものに強く反響して居る。チェホフが「火は私の衷に急激に火花を散したり燃え上ったりすることなく、徐ろに、平均に燃えて居る」というのと正反対だ。忘られぬ一つの言葉、「ひとは最も自分を利用することを忘れてはならぬ、病苦さえも」
そして、彼は、確かに自分の病苦さえ、負ける迄は誰がしたよりも賢く立派に利用した。その自己の利用ということについて、更に考えがのびる。
自己の内にあるもの、得た知識、それ等をどうひき出し、どういう形に、いつまとめるかをはっきり知って居るものが、芸術家としても豊富になる。豊富さとは、徒に、読こみ、ためこむ、その蓄積一面より、いかに貯え、いかに出すか、その間の活々した流動にあると思う。大いに考えるべきことだ。大きく、よき芸術家となるには、どう自分を素直に敏感にするかという修業の一方に、どう賢く自分を利用し得るかを研究することが大切と思う。