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にっき
日記
宮本 百合子
11 一九二五年(大正十四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,462 字 · 72 页
十月七日
十月八日
十月九日
一誠堂でオックスフォードがない。フレーズ辞書もなし。ここで野上さんに会う。ドウデエの Passion of the south を見つけて買う。訳者、余り大した人ではなさそうなり。
十月七日(水曜)
『読売』のために、「茶色っぽい町」十一枚を送る。
Y、チェホフの手紙を又よみなおしてくれという。よみつつ、彼女は又先の方を原書でよみ、話す。チェホフのやさしさ、などについて。自分悲しくなった。――このようにチェホフについて話す我々の互の心持も又なくやさしいものだ。彼女をおいて、私にはこのように話し、このようにたのしむ人をもたない。この生活は永久につづくであろうかという無常感だ。Y、弱い。自分は、センチメンタルになることをゆるせば、愛を本当に知らされた人にいつか別れるという苦痛を今から恐怖する不幸な人間だ。
十月八日(木曜)
雨、
我々は互に飽るということがない。
この互にたのしむことは恐しい位だ。何故なら、私はよく、外の世界の存在を忘却するほどだから。
十月九日(金曜)
雨
縁側の机のところに居、鴎外全集中、四十五年頃の翻訳「正体」をよむ。構成派的の耽美がこの時代にもうドイツにはあったものと思われる。