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にっき

日記

宮本 百合子

15 一九二九年(昭和四年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页

青空文庫

中央が泥濘だ。電車でも敷けるのかしらんと思いつつ行くと、ぱっと行手が開いて神楽坂の下に出た。いつ見たこともない神楽坂が今日自分の周囲にある。祭日だ。人の無限の流れ、アスファルトの歩道の端に佇んで自分はその人出と雑踏を見物した。労働者風の男がきたないねんねこで男の子をじかおんぶして、私の後から流れる人出にまぎれ込んだ。交通巡査の脚絆姿が人と人とのすき間から見えた。えらい人出だ。その中を歩道とすれすれに歩いて俥が二台店の方から来た。先の一台には白髪の上品なお婆さんが孫を膝にのせて乗って居る。あとには若い妻らしい奇麗な女がやっぱり小さい子を抱いてのって居る。お婆さんのおだやかな笑をふくんだ顔にも、若い妻の自覚せぬ美に満ち輝いた顔にも、単純なあたりの人出にびっくりした表情があらわれて居る。自分歩道に立ってゆっくり自分の前を通りすぎる俥上の老若の顔を好意をもって見物した。

――○――

土方成美もさすがひとの婿になるだけの男だ。昨今日本の知識階級の就職難を学校教育の欠点のみによって説明しようとして居る。そのような学校教育を統治するところの文部省は、学校そのものが、誰の手によって何のためにあるのか、それが何故うまく行かないかに言及せざるところ。