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にっき
日記
宮本 百合子
15 一九二九年(昭和四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页
十一月二十四日
○五時すぎの月、緑、赤、紫、黄の円光が月のまわりにかかって居る。土曜日の寺の鐘の音が、その月の輪に入ってふるえた。
○七時頃、月は中天に高い冬の月。
○電車停留場で十五分電車が故障した。
Р・К・К・フロートの水兵が外套の背中に二筋のリボンを下げて
――二十四番はここへ止りますかね
顎骨のはった耳の高くついた顔に地方からの風がのこって居る。
――何番?
片手ない爺、だらりと古外套を着て、右手に火のついて居る煙草とヴォクルーグ・スウェータ〔『世界をめぐって』〕をもって居る。
――二十四番、あっちへ行くんだが
――じゃ、そっちだ、今十八番の止ってるところ、
○鳥打帽をかぶって白まがいアストラハンの外套を着たコムソモールか、新聞包みをかかえて、カタカタ足ぶみをして、自分の手の爪をじっと見て、彼方へ行った。かえったときは、何か口に入れてむにゃむにゃかんで居る。
○電車が来た。人なだれ。
――さあさあ、お婆さん
車掌
――冗談しないで車内へ入って下さい
――冗談してやしないよ、婆さんとふざけられるか
○停留場のガラスばりの内。
ベンチに黒いタムをかぶって、この頃流行の横線入り靴下をはいた女、両脚をそろえ、エナミルのアングリースキー靴を眺めて居る。