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にっき
日記
宮本 百合子
15 一九二九年(昭和四年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,482 字 · 160 页
当時は黙って居たが、それは全く一つの礼儀からだけであった。和田さんの苦しい心持を察し云うことは出来なかったのだ。
それから片上伸の弟、竹内仁のことがあり、金田一京助の弟のことがあった。やっぱり金田一のときなど、はっきり不満を感じた。
自分のところにやがて同じことが起った。そして初めて、自分の置かれた Moscow と東京という地理的距離以外に大きい距りが生きるものと死ぬものとの間に在ることを感じた。兄や姉一人が自分の力で如何ともし得なかったものが、和田さんの場合には勿論、金田一のときにだってあったのだ。それを理解した。
この間は細田民樹の弟が死んだ。私も弟だ。そして苅田さん。複雑な社会相が丁度弟の二十前後にぶつかった。これが最大理由の一つ。生きんとするものの姿が一層死なんとするものを死に追い込むのではないかと思う力学的暗示一つ。
「あの人はああやって生きて居る。俺の心は判らぬ。生きるものは生きよ」
生きるものの心にはそして漠然とながら、
「死ぬものは死ね」
という、ふんばった心が決してないとは云えないのだ。
ああお前は死にたいか、よく分る、死んでやろう一緒にとは云わぬ。